松本さん(全体意匠統括)
小松さん(ディテール・内部計画)
八神さん(構造設計)
町の風景に溶け込み、人と人とがつながる場として設計された新庁舎・複合施設「ツドエル」。この施設は人と人、人と町をつなぐ新たな空間であると同時に、「町の木で町の未来をつくることはできるのか」という問いに挑んだ、前例の少ない公共施設建設でもありました。
後編では、その挑戦を支えた木材の調達や設計上の工夫、地域との協働の裏側を、意匠・ディテール・構造を担った3人の設計者が振り返ります。
地域の木を使って建てるという挑戦

ー3000平米という大きな建物を池田町の木で建てること、これは、プロジェクトの大きな挑戦だったと想像します。設計者として、地場産材の使用をどのように受け取っていたのでしょうか?
松本:
鉄骨やコンクリートと比べて、おもしろくもあり、難しくもあり、というのが正直なところです。設計のスタートは池田町に生えている木の特徴やサイズなどの情報を知ることからでした。木に関する情報のやり取りの鍵になったのが「木材調達コーディネーター」の存在です。
ー木材調達コーディネーターとはどんな人たちですか?
八神:
地元の人と一緒に山に入って、どのくらいの大きさの木が、何本採れるのかそういったことを共有してくれるチームです。林業関係者、製材事業所、木材市場などからの情報を仲立ちして伝えてくれました。
小松:
設計時にはわたしたちもコーディネーターのみなさんと一緒に池田町の山へ調査に行きました。設計する建築物の材料が採れる場所を自分の目で見る体験は初めての経験だったのでとても新鮮でしたね。

ー 池田町の山や木の情報をもとに、設計を進めていったということですね。難しかった点や苦労した点を教えていただけますか。
八神:
池田町でどういう木が採れるかということはとても丁寧に情報共有してもらっていました。ただ、その木を使って建物を作るためには、建物の構造で使用する柱の大きさを池田町の木の大きさに合わせる必要があります。
たとえば、図面上で80センチ径の柱を20本描いていたとしても、実際に必要な量の木材が手に入るとは限りません。鉄骨やコンクリートであれば、必要な材料を不足なく手配できますが、山にある木となるとそういったオーダーができないので、制約があるなかでの設計になりました。
松本:
木を切ったあとは、丸太を柱用の角材に加工する工程があります。通常の木造建築では、丸太を薄い板状に切って再接着した「集成材」を使用することが多いですが、わたしたちは、できる限り加工がシンプルな「製材」で設計することを心がけました。

ー 製材の使用にこだわったのはなぜですか?削る部分が少なくて、木を無駄なく使えるからでしょうか?
松本:
はい、木を無駄にしないことも理由の一つです。もう一つの理由に、丸太を加工する工程を町内で完結させたいという点がありました。木の板を何層も接着する集成材は、町内で加工ができないとのことだったので、町内の産業活性の観点からも製材の使用を意識しました。
ほかにも、木は生きているので、柱になってからも変形したり変色したりする可能性があります。そういった制約があるなかで、安全性や耐久性を調整して設計するのは、難しくもあり、おもしろい挑戦でした。
木の魅力を設計にどう活かすか

ー 木だからこそ実現できたことについてもお聞きしたいです。
松本:
木は建物を骨組みとして支える構造材としても、部屋のなかで目に見える仕上げ材としても使えます。仕上げ材で活用できるのは、「さわってみたい」「匂いをかいでみたい」と思わせる木のならではの特徴があるためです。こういった感覚は金属やコンクリートにはあまり感じないですよね。
話が少し逸れますが、今回のプロジェクトでは建物の性能基準「ZEB ready」を達成しています。ZEBは建築物のエネルギー性能や快適さを数値で示した一つの指標です。木は温度や湿度などの数字で表す快適さに対して、数字には表れないぬくもりや解放感といった快適さを付与してくれる要素だと感じます。木を使うことは、快適で愛着が持てる空間を作るために有効な手段だと改めて思いました。
小松:
たしかに、建物の表面、現し(あらわし)として見えるのは、木を使う魅力であり、難しさでもありますね。柱や骨組みなどの構造材は、表から見えないように天井や壁で塞ぐのが一般的です。しかし、今回は、構造材が見えるような設計を採用しました。
壁で塞ぐのであれば、構造に支障がなければ、柱同士をどのように組んでも問題ありません。ただ、新しい庁舎のように柱や骨組みを見せる設計では、不自然な柱の組み方をすると視覚的に違和感を感じる空間ができてしまうんですね。
細かい部分ですが、誰が見ても違和感がないように、構造材の組み方にも配慮しました。愛着がありながら、木目の美しさを感じていただけると思います。
ー 地場産材を使用することにはどんな可能性があると思いますか?

八神:
地場産材を使うことは、地域産業を活性化する取り組みになると確信しています。今回のプロジェクトでも、コーディネーターとして町外のメンバーが山に入ることで、地元の人が気付いていない町産材のポテンシャルが引き出されるシーンが多々ありました。
松本:
かつての日本では、もっと林業が盛んで、地元で木を供給する生産者も多かったと思います。山の事情をよく知り、その知識を町の経済や加工工場と結びつける人や、生産体制が地域ごとに存在していたのではないでしょうか。
しかし、木造建築の減少や林業の衰退にともない、その仕組みは失われてしまいました。これからは、地域の木を建築やエネルギーといった資源として活用するために、山と町をつなぐ産業を運営できる人材を育てる支援がますます重要になると思います。
そして、地域全体で脱炭素に取り組む池田町の人たちが、きっとその役割を担っていくのではないかと、ひそかに期待しています。
日常に寄り添う、新しい居場所として

ー 最後に、池田町のみなさんへメッセージをお願いします。
松本:
新庁舎やツドエルを、今の生活にひとつ加わる「日常の場」として活用していただきたいです。ふらりと立ち寄って近所の人と話したり、本や展示に触れたり。そんなふうに生活を豊かにする延長空間にしてほしいと思っています。
これだけ大規模に地場産材を使ったプロジェクトは国内でも珍しいので、ぜひ、建設の過程から関心を持って足を運んでいただきたいです。
小松:
居心地よく長く使っていただければと思います。自分の家の一部のように感じながら、たくさんの方に愛着を持って利用してもらえたら本当にうれしいです。
八神:
町内の木をこれほどまでに活かした建物は他にないと思います。それを町の誇りとして、地域の自信につなげてもらえればと思います。

ー 池田町の森で育った木を使い、人と人、人と町をつなぐ場として誕生した新庁舎とツドエル。地場産材を活かすという大きな挑戦は、木材コーディネーターとの協働や設計チームの工夫によって実現しました。
木の魅力を最大限に引き出しながら、町の風景に調和し、町民に開かれた空間をつくり出すこと。そこには、単なる公共建築を超えた「地域と共に未来を築く」という強い意志が込められています。本プロジェクトは地域資源を未来へとつなぐ公共建築のあり方を示す、新たなモデルケースになるはずです。
執筆・編集/虎尾有亜