活動レポート

インタビュー

町と人、木と建築をつなぐ「ツドエル」〈前編〉 ―― 香山建築研究所・設計チームが語る、設計に込めた思い

設計

香山建築研究所・設計チーム

松本さん(全体意匠統括)
小松さん(ディテール・内部計画)
八神さん(構造設計)

町役場、図書公民館、ホールが一体となった複合施設「ツドエル」は、町の人びとがふらりと立ち寄り、思い思いに過ごし、つながりを育める新たな公共空間として誕生しました。設計を手がけたのは、地域に根ざした建築を数多く手がけてきた香山建築研究所・設計チーム。

本記事では、意匠・ディテール・構造と、それぞれの分野を担った3人の設計者が、池田町の風景や人びとの営みに寄り添いながら、この場所に込めた思いや、空間に込めた工夫について語ります。

風景に調和するポテンシャルの高い建築物を目指して

ー 初めて池田町を訪れたとき、どんな印象を持ちましたか?

小松:
川があって、空があって、森があって、そのなかで緑が明るく見えました。ぐるっとまわってどこを見ても素敵で、「この風景の一部になる建物ってどんな建物だろう」そう思ってお仕事を始めさせてもらいました。

松本:
日本各地に自然が豊かな場所がたくさんありますが、池田町を見たときに、まじりっ気のない自然だなと感じました。人工的な建物や看板が少なく、余分に手を付けずそのままの美しさを大切にしているのだろうなと思いましたね。

八神:
大樹がいっぱいあるのに驚きました。あとは、池田町で見たスケッチが印象に残っていますね。

ーどんなスケッチですか?

八神:
香山建築研究所の代表が描かれたスケッチです。建物の大屋根が、背景の自然によく調和していて。

松本:
代表の香山は、実は、何枚も池田町のスケッチを描いていました。季節を変えて、アングルを変えて、風景のなかに建物を描くことを楽しんでいたのではないでしょうか。

小松:
池田町の山や川に溶け込むよう、ツドエルには、横に長い平屋や、ゆるやかな傾斜の大きな瓦屋根といった特徴を持たせています。

視覚的に「つながり」を持たせる複合施設設計の工夫

ー ツドエルの大きな特徴は、町役場・図書公民館・ホールがそろう複合施設である点です。設計チームとして、この特徴をどう図面に反映させましたか?

小松:
3つの施設に「視覚的なつながり」を持たせることを意識しました。敷地の制限があるため、多くの施設では、1階は庁舎フロア、2階は図書館のフロアのようにそれぞれを階ごとに分けるのが一般的なんですね。

ただ、ツドエルは複合施設を平屋で、つまり同じフロアで設計できました。機能だけでなく、視覚的にもつながりが感じられるよう、T字型の設計を採用しました。

松本:
具体的には、真ん中のエントランスホールを中心に、正面に多目的ホール、右に町役場、左に図書公民館があります。エントランスホールに立つと、3つの施設が全部見えるような造りです。窓口に来た人がオープンスペースで休み、本を返しに来た人がホールの催しにふらっと参加するといったような、そうした偶然の出会いを期待しています。

小松:
役場で働いている人の姿も、いい意味で丸見えなんですね。そういった空間でも業務上のセキュリティはしっかりと保たれるよう、設計にメリハリをつけています。

「過ごしたい場所」「働く場所」としての空間性と場所性

ー 町の人にとってツドエルが「過ごしたい場所」になるために工夫したことはありますか?

八神:
わたしは建物の構造を担当しているので、あまりデザインのお話はできないのですが、池田町の風景になじませるということは強く意識しました。

3000平米もの広さの平屋はあまり例がありませんが、屋根越しにも山や空が自然に目に入るようにしています。外から見ても、中にいても心地いいことが足を運びたくなる大事な要素だと思うので。建物の窓から見える、外の景色も素敵ですよ。

小松:
外といえば、裏側の川沿いにはちょっとした広場を設けています。川の近くで人が過ごせる場所があると、なにかと使い道があるのではないかと思います。屋内と屋外をつなげるような利用もいいかもしれませんね。ぜひ活用してほしいです。

松本:
たくさん人が来るということは、さまざまな目的や好みにあった空間が必要だということ。にぎやかに会話を楽しみたい人には開かれたスペースを、一人で静かに考えを深めたい人には書斎のようなこじんまりとしたスペースを、といったように一つの施設のなかにいろいろな場所性を持たせました。

ツドエルは屋根が斜めになっていて、中央にいくほど高さのある開放的な雰囲気があり、窓際にいくほど低くて落ち着きを感じられるようになっています。そのときの気分に合わせて、いろんな場所で過ごしてもらえるとうれしいですね。

ー 「働く場所」としてはどうでしょう?

松本:
「働く場所」としての「良い環境」はそこで働く人たちが、どういう働き方をするのかで決まります。たとえば、打ち合わせの頻度や、職員同士のコミュニケーションの取り方によって必要なスペースは異なりますよね。なので、模範的なオフィスを作って手渡す、ということはせず、役場の人たちに仕事の様子を細かく聞いていきました。

小松:
役場の人の話を聞いていて思ったことは、仕事のためのスペースであっても、あくまでも「町民のみなさんとシェアする場所」でありたい、ということ。ある意味、「働く」ためだけに作っている場所はないかもしれません。

松本:
ツドエルは、町で暮らす人と、町のために働く人が一緒に過ごす施設。同じ空間にいることで、町民と行政とのつながりがより濃くなっていくことを願います。

ー 町の風景や暮らしに溶け込む建築としての「ツドエル」は、単なる公共施設ではなく、人と人、人と町をつなぐ“場所”として丁寧に設計されてきました。自然に寄り添う外観、視覚的なつながりを意識した空間構成、多様な使い方に応える柔軟な設え。その一つひとつに、設計チームの深い思考と、町へのまなざしが込められています。

そしてもうひとつ、このプロジェクトの根幹にあったのが「池田町の木を使って建てる」という挑戦。地域資源とどう向き合い、どんな困難を乗り越えて建物として結実させたのか。後編では、設計・施工の舞台裏に迫ります。

執筆・編集/虎尾有亜

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